第一章〜ラルフとエレナ2〜





場所はかわり、マタリエル軍の陣地。辺りは砂漠地帯の近くで、荒野と化して

おり、若干の低木や、ラモラシュの花などがちらほらと咲いている。ここ、

マタリエル軍の陣地には数万のダークナイトがひしめき合い、その黒光り

する鎧に身を固め、出撃の時を待っているのだった。


マタリエル軍はレティシャ砦の目前に陣取っていた。

陣地の中央にある大きな幕は、提督や将軍達が作戦会議を行う場所がある。

その中には机があり、それを取り巻くように二人の暗黒騎士〜ダークナイトが

立っていた。


 「言っている事とやっている事が違いますよ!提督!」

ドン!という激しい音とともに、若い方の暗黒騎士が、拳を机にたたきつけた。

その拍子に、机上の筆や羊皮紙が散らばる。


 「まあ、待ちたまえ。君の言う事も一理あるが、補給線は絶った。ここは魔獣の

 群れを昼夜当てて、相手が疲れきったところで、最後にダークナイトの精鋭で

 攻めるのが一番損害も少なく、勝率も高いと言っているのだが、理解できん

 かね?」


 「いや!提督!ここまで来て持久戦なんてする必要はないでしょう?クロノス城

 からは援軍もそろそろ出て来る頃合です。その前にすぐにでも私の軍に出陣

 のご許可を!」


提督と呼ばれた騎士は、腕を組んでジッと目をつぶっていたが、何も答えない。

現在、マタリエル軍はクロノス城まで後一歩というところで、レティシャ砦の陥落

に手こずっている。マタリエル軍を指揮する提督は、ここでは焦らずに、マタリ

エル軍の損失を最小限に抑えようと考えていた。それが、この血気盛んな

若いダークナイトの将軍には気に食わないらしい。


提督は胸元のペンダントを眺めていたが、やがてつぶやいた。

 「敵の援軍は第ニ軍が叩く。ラルフ、現時点での出陣は却下だ。」

押さえる様にそういい捨てると、彼は幕の外に出て行った。

 
 「・・・ちっ、 案外提督も腰抜けだぜ。一気に攻め落としてしまえばいいのに。」

まだ怒りのおさまらない若い将軍、・・・ラルフは、ふと見ると、幕の入り口に

立っている人影に気がついた。それは先ほどクロノス城にいた、あの女性

だった。キリっと引き締まっているが、まだ若干あどけなさが残る顔には、

彼を心から心配している何かが伺える。


 「エレナか」

質問や確認というより、詰問口調になっていたが、ラルフは気がつかなかった。


 「・・・ラルフ、どうしたの?」

それを無視する様にラルフは続けた。


 「エレナ、クロノス城の様子はどうだった?」

 「ええ、私たちの黒魔術で、コエリス連合の指導者はウーノス奪回の偽情報で

 城内の士気を高めようとしているわ。クロノス城からはようやく援軍が出た

 けど、しばらくしたら、ウーノス奪還は嘘だとわかって、一気に兵士の士気も

 下がるでしょう。その時こそ攻め時ってとこね。これが、参謀としての

 意見よ。」


 「・・・あんなレティシャ砦なんて、さっさとぶっ潰してしまえばいいんだ。

 奴等より俺の第三軍の方が絶対に士気も上だ。なんだってお前も提督も

 ダラダラしたいんだ?」

 「・・・それで、提督ともめたの?」

 「いや、もめちゃいないさ。だが、さっさとぶっ潰せって言ってやったんだ。」

ラルフ将軍はそう言うと、そのまま幕の外に出て行った。





ここで、二人の過去について述べてみる。

エレナとラルフは幼馴染で、両親はともに黒魔術師の家系だった。

二人の両親は、同じ教団内での実力者だったが、二人がまだ幼いとき、両家が

派閥争いを起こした。これによりラルフの両親は、当時、黒魔術の名家だった

エレナの親に殺されたのだった。


それでも、ラルフはエレナやその両親を恨む事は無かった。代わりに、無力

だった自分の親を責めた。エレナは自分の両親が招いた不幸に責任を

感じつつも、わだかまりを持たずに接してくれるラルフを、実の兄のように

慕ってきた。しかし、この頃からラルフは常に力・・・権力を欲する様に

なったのだった。


ある日、ラルフはそれまでの黒魔術の道を捨て、いきなり暗黒騎士団(ダーク

ナイト)に入団した。 その後、大戦初期にマタリエル軍がカルス城を陥落させた

際、パラディンの小隊を殲滅した功績で、25歳の若さで小隊の指揮官に任命

された。


その後は頭角を現し、ドンドン出世していった。 権力への欲望が、ここまで

彼を押し上げだろう。 三年後にはファン城攻めで功績をあげ、第三軍を

任される将軍にまでなったのだった。


一方、黒魔術の道をひたすら歩んできたエレナは、ラルフの傍にいる為には

自分も力のある立場になるべきと、マタリエルの組織した黒魔術師団に入団。


先のコエリス教団の内部分裂工作で功をあげると、こちらもメキメキと頭角を

現し、今では黒魔術師団の筆頭株までになった。この為、現在はラルフと同じ

戦場に立つことができている。





ラルフが出て行った後、エレナはふと、幕の天井を見上げ、

 「焦ってはだめよ。ラルフ・・・」

一人つぶやいた。


すでに空には星たちが無限の空間を支配し始めており、松明の炎が

紺色のキャンバスを染めていったのだった。


第一章 完