第二章〜絶望と野望1〜

クロノス大陸のほとんどがマタリエル軍団に掌握された今、コエリス連合軍の
残存部隊、いわゆる各地の生き残りはクロノス城に集まっていた。
その中に、ウォーリアーで再編成した部隊があった。
「セス隊長!教団のお偉いさんには何かいいアイディアでもあるんでしょうか
ね!?」
ロリポップという名の、ハチェットを腰にぶら下げた部隊長が、セスという
ウォーリアーにたずねる。
セス・・・彼はまだ砦までは数日の距離だというのに、既に完全武装している。
緑色に光る鎧兜に背中に抱えた大剣。この剣はギガツーハンデッドソードと
呼ばれる魔剣だが、武器屋のフレドリック三世の手により、更に磨きがかかり、
より軽く、そして切れ味とその魔力はかなりのものだった。
そして、堅実な指揮能力と鋼の様な体を持つ、このウォーリアー将軍は、隆々
たる筋肉をロリポップに向けジッと見下ろしていたが、やがて 「何とかなる
だろうぜ」 と、なかば適当に答えた。
ウーノスを奪還の情報があったが、ウーノスひとつを奪還したところで戦局は
大きく変わらないとセスは考えており、大勢の兵士達はこの情報で活気付いて
いるものの、部隊長やその側近クラスの兵士達彼は未だに悲観的だった。
セスも正直なところ、「むしろ、何とかして欲しいぜ」 という思いだったが、
部隊長の立場としてはさすがにそれは口にできなかったのだ。
「あのアホ野郎どもが余計な小細工しなきゃいいんだがなあ・・」
セスはコエリス教団の幹部達が下手に策を弄して、自滅の道を歩む事を危惧
していたのだが、さて、どうなることかは、クロノスの神々すらわからない。
「将軍、そろそろお時間です」
部隊長のズブが告げる。彼は荒涼地帯の戦闘用として、比較的身軽なハード
レザーアーマーの上にローブを着込んでいた。
「じゃ、おめ〜ら!殴りこみに行くぞ〜!」
と、セスは約1千人の戦士達に出陣の合図を送った。 ウォーリアー部隊は、
様々な思いを武器に託し、クロノス城から旅立つのだった。
その頃、大魔術師ラロシュ率いるコエリス神聖魔術師団は、約100人の上級
マジシャン、約500人の中級マジシャンの編成でレティシャへ向けて急進して
いた。
「クロノス城に隠れて安穏としている、権力に溺れたもの達よ、この現実を
見よ。既に人々は希望を無くし、ただ彷徨うばかりだ。」
ラロシュは成長武器のジャドを片手に、こう呟いた。彼も戦いの際には、セスと
同様に緑色に光る鎧を身につけるのだが、今は簡単なローブをまとい、その姿
は杖にすがる老人そのものにも見える。
しかし、彼のその鋭い目は、家を失い、家族を失った人々の列がクロノス城を
目指して連なっているのを見続けていた。彼等の中にはマタリエル軍のあまりの
急進撃に、裸で逃げ出してきたもの、家族を失い半ば発狂する者、更には絶望
のあまり自害するものもいた。
「教団の指導者は猜疑心にとりつかれ、人心は離れている。このままでは、
負ける。既に人々の心がくじけている。何とかならんのか・・・」
ラロシュ率いる神聖魔術師団は、人々の屍を乗り越えレティシャへ向かう。
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