第二章〜絶望と野望2〜





 「こいつら!何度殺せば死ぬんだぁぁぁ!」

意味不明な言葉をわめき散らしながら、聖騎士〜パラディン〜達は剣を

ひっきりなしになぎ払っている。相手は骸骨とゾンビだ。


この日レティシャの砦を襲ったのはいつものクルーキオなどの化け物ではなく、

アンデットだった。 このモンスターは元々は付近の住民や兵士だったのが、

悪魔の呪いによりアンデットとして蘇った訳で、セルキス率いるレティシャ砦の

パラディン達にしてみれば、元の同胞のこの様な姿を見るのも、それと戦うの

も、どちらも気持ち良いものではなかった。


いつもの金属同士が弾けあう音ではなく、「グシャリ!バキッッ」 といった肉や骨

が潰れる音が印象的だ。既に長期の戦いの為に、血の匂いに晒されることで

嗅覚が鈍っていたパラディン達も、ゾンビの放つ腐臭には参っていたのだった。


 「セルキス隊長!火を!魔術師に!!!」

ジュジというパラディンが叫ぶ。彼のつけるスプリングアーマーには既に大量の

返り血ばかりか、黒々としたゾンビの腐った汁の様なものが大量についている。

激戦の証だ。


 「そうだ!アンデットは火に弱い・・・魔術師の部隊は、エクスプロージョンを!」

セルキスの号令で、アンデット達へエクスプロージョン・・・砦の数少ない魔術師

達による火炎魔法を浴びせた為、ゾンビ達が松明よろしく燃え始めた。

今度は腐臭の代わりに肉の焼け焦げる匂いと黒煙が、この阿鼻叫喚の

世界を彩る。


骸骨の方は、鈍器で叩くのが手っ取り早そうだ。 セルキスも自慢の魔剣から、

ウォーメイスに持ちかえ、骸骨相手に戦いを続ける。


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

その時、隣にいた騎士が骸骨剣士に肩を切り裂かれた。 瞬間、ドグシャッ!

と、いう音とともに、セルキスの振りかざしたウォーメイスが骸骨にめり込む。

鈍器で叩かれた骸骨は、二度と復活しなかった。


セルキスはセクリィス提督がこの砦に来るまで、この砦を仕切っていた守備隊長

だ。セルキスもセスと同じく緑光する鎧を着込み、その類まれなる機動戦術には

定評がある。今は彼の得意の機動戦術を発揮できることはなく、日々魔物の

撃退に明け暮れている。


1時間後。

モンスターの退却で、この小競り合いは終了した。

約2時間の戦いで、さすがのパラディン達も疲労の極地に達していた。しかし、

また魔獣の群れが襲ってくるだろう。


 「セルキス隊長、見てくださいよ、これ・・・」

砦の修復作業中にパラディンの一人が、不気味に動くちぎれた腕を恐る恐る

つかんで持ってきた。ゾンビの腕は、どうやらその脳みそとは無関係に動くよう

だ。と、言っても、脳みそがあればの話しだが。

ヒュン!!

セルキスが剣を一閃。その衝撃波、ショックウェイブにより、たちまちゾンビの

手は切り裂かれ粉々になる。


 「相変わらずお見事な腕前です。我々もそこまでの力があれば、もう少しお役

 に立てるのですが。」

そばにいたパラディンは追従ではなく、心からそう言った。

 「いや、今日の戦もお前たちの働きがなければやられていた。感謝する。」

 「しかし、敵だってこれだけ波状攻撃しかけてくれば疲れるでしょうに。
 
 なかなか休ませてくれませんね。参りましたよ。」

 「そう言っている割に、お前は余裕だな!」


皆にひとときの笑いがこぼれる。しかし、実際のところ、余裕のある騎士は

一人としていなかった。彼等の気力はあとどれだけ持つのだろうか・・・