
「全軍!かかれ〜!!!」
ナリッチの号令とともに、ミュータニオの遠距離攻撃が始まった。谷の下に
向けて一斉に、魔法の矢が弧を描いて放たれる。一方、先頭を行軍していた
セス部隊は、伏兵があるだろう事を察知していた為、すぐさま
「防矢の陣を!!」
との掛け声で、盾をかざし攻撃を防ごうとする。クロノス城にいた際、各地の
生き残りで編成されたこの部隊は、セスの行った訓練により、今では一糸
乱れぬ防御陣形を保っていた。
セス軍団の意外な反応の良さに、ナリッチは遠距離からの奇襲はきかなかった
事を悟り、今度は緩やかな崖の上からベラトゥアー、レイクリーパー、ギガント、
ミュータニォを突撃させ、接近戦を挑んだ。
「フン!」
セスの持つギガツーハンデッドソードが轟音をとどろかせながら、レイクリーパー
の一群へ大渦を撒き散らしていく!
「うりゃぁぁぁ!!!!エナジーストライク!」
と、いう声とともに、二刀流のハチェットでベラトゥアーを屠っているのは、
ロリポップ。目の前のベラトゥアーを一匹、また一匹と倒していく!
しかし、ミュータニオ主力のマタリエル軍の勢いは全く衰える事はなく、
ウォーリアーの部隊は押され気味になってきた。既に峡谷は乱戦状態に入り、
阿鼻叫喚の世界と化している。ラロシュの部隊は、峡谷の後ろの方におり、
谷間が狭く、前に出ることが出来ない。
「鎧袖一触とはこの事だな・・・」
ナリッチは崖上からこの戦いを指揮していたが、完全にマタリエル軍が押して
いるのがわかる。セスの部隊は後ろに退却を始めたが、狭い峡谷の為、後退が
スムースに出来ない。
「ナリッチ様、敵は前にも後ろにも引けず、自滅していくでしょう。」
「・・・・」
ナリッチはジッと腕を組み、崖上から見守るのだった。
・・・30分後
とうとう崖下に見えるセス達の先頭集団は、ミュータニォの群れに囲まれ絶体
絶命のピンチに立たされていた。
「・・・まだか!!」
セスはミュータニォの放つ魔法の矢を防いではいるが、既に緑に光る鎧には
無数の矢が突き立っていた。満身創痍の状態だが、彼の力は依然として尽きる
事はない。ギガツーハンデッドソードを持つ手に力を込め、周りを取り囲む魔物
へ、ソニースパイラルを放つのだった。
崖上にいるナリッチは、荒涼とした大地を踏みしめつつ、仁王立ちして状況を
見ている。そろそろ後方のラロシュ部隊へも、突撃をかけようと、タイミングを
計っていた。
と、その時、突然!!
ナリッチ達の背後から、ときの声があがった!
「なんだと!?」
身構えるのもつかの間、崖上の彼らの後方から、なんとパラディンの群れが
迫ってくるではないか!
実は、セクリィス提督はマタリエル軍の動きを読んで、事前にセルキスの一隊に
峡谷の付近に伏せていたのだった。セルキスは敵の将軍が崖上にいるのを
見定めると、出撃の機会をうかがっていたのだった。
これにより、マタリエル軍は前後から挟撃される事となった。
更に悪い事には、マタリエル軍は殆ど谷をくだってしまい、ナリッチのそばには
数百の魔物がいるにすぎない。
「面白い!受けて立とうではないか!ミュータニォ隊は射撃を開始!残軍は
背後の敵を討て!」
そう命令を下すと光を放つ長剣を振りかざし、周りの魔物達へ迎撃を命じた。
しかし、セルキス隊の奇襲で浮き足立った崖上のマタリエル軍は、次々にその
数を減らされていったのだった。
「チッ!」
しばらくの後、既にナリッチも乱戦の渦中にあり、ダークナイトの長剣から
ひっきりなしに閃光を放ち応戦していた。その黒光りする鎧は早くも傷だらけと
なっていたが、彼の周辺にはパラディン達の死体がごろごろと転がっている。
「そこにいるダークナイトは、名のある将とみた!!」
崖下の状況を挽回し、一足先に崖上へ駆けつけたウォーリアーが肉迫し、
エナジーストライクを打ち込んでくる。すかさずナリッチも長剣で応戦した。
ウォーリアーは二刀流のハチェット使い。しかし、ダークナイトの鎧は硬く、
そのハチェット使いのウォーリアー・・・・ロリポップは、ナリッチに決定打を
与える事が出来ない。
逆にナリッチの激しい剣の切り返しに、防戦一方となってしまったウォーリアー
は崖っぷちに追い込まれた!絶体絶命のピンチ!
「頂いたぁぁ!!」
ロリポップの体勢が崩れたところを狙い、ナリッチがその頭上に長剣を振り
下ろそうとする瞬間!!
「バキッ!」
後ろからセルキス隊のジュジが、大鎌でナリッチの腹部に刃を突き立てた!
しかし、その刃は粉々に砕け、暗黒の鎧にはかすり傷が出来たのみだ。
さすがに将軍クラスともなると、その鎧の魔力は凄まじく、簡単には崩せない。
ジュジは荒れた大地にグッと踏ん張ると、手早く腰の長剣に得物を代えた。
鉄の色をしたスプリングメイルが彼の鼓動を感じ、上下する。
ナリッチは、ジュジとロリポップの二人を楽々とあしらいつつも、戦いの状況を
見極めていた。挟撃されたとはいえ、全体的にはまだ互角の戦いを続けている
様だ。
「うぬらにかまっている暇はないわっ!!」
その赤い目をクワッと光らせ睨みつけると、ダークナイトの長剣を一閃する!
ついにジュジの自慢のスプリングアーマーは悲鳴をあげつつ割れてしまい、
ロリポップはハチェットを取り落とす。すかさず、ナリッチは長剣をロリポップの
真上に振り上げた!
ロリポップの体が真っ二つになると思われたその瞬間!
突如!頭上で爆発が起こった!
ナリッチは召還されたシャスタの放つ爆炎であっという間に吹っ飛ぶ!
ロリポップとジュジも爆風で吹っ飛んでしまったが、こちらは大したダメージは
無い。
「くっ、何者!」
爆風が止むと、目の前にはジャドを手にした緑色の老人が立っていた。
老人は続けざまに氷の魔法を叩き込むと、ナリッチの動きは鈍くなって
しまった。
「小癪な!ダークフレイム!!!」
ナリッチの剣先から放つ炎は、しかし、その老人には届かない!いや、届かない
というより、氷の魔法で防いでいるようだ。これには、さすがのダークナイトの
将軍も唖然としてしまう。
その一瞬の油断をつき、半裸状態のジュジはナリッチの背後に回りこみ、
その首先・・・鎧と兜の間に狙いを定める!!
ゴキッ!!!
凄まじい音が辺りに響き渡る!ナリッチの口から長剣の先が現れ、その口から
は真っ赤に染まった液体が流れ出していた!!
「ぬ、ぬかった・・・」
その言葉も声にはならず、第二軍の将軍は、氷の張った荒野に崩れ落ちたの
だった。
ナリッチは死んだ。
と、同時にマタリエル軍は散り散りに退却し始めた様だ。
ロリポップとジュジの窮地を救ったのは、ラロシュだった。
彼は後方からなかなか抜け出せなかったが、崖上までテレポーテーションで
移動し、この戦場までたどり着いたのだった。
「おぬし達、ようやった!これで我が軍は砦にたどり着ける!!」
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