第六章〜罠・そして1〜





 「提督、いい加減やらせてください!」

マタリエル軍の大本営の幕内では、再びラルフと提督が角をつき合わせて

いた。提督は胸元のペンダントを手でいじくりながら、我慢強く説得を続けて

いる。


「黒魔術師団の報告では、例の噂が敵陣に浸透してきたらしい。もう少し様子を

みて、敵の士気が下がったところを一気に叩くのが筋だろう。」

「しかし、その間にデュフォンの援軍が来てしまったら、・・・・・」

「デュフォンは出てこんよ。別行動中だ。」


前回の各個撃破作戦が失敗し、ナリッチの第二軍は崩壊。それでもマタリエル

軍の兵力は約3万のダークナイト精鋭部隊。


一方、援軍を加えたとはいえ、コエリス教団の兵数は1万6千程度。

いまだに二倍の兵力を保っていた。


更に、以前、クロノス城で公示されたウーノス奪還情報が、偽情報とわかれば、

砦の守備兵の士気は下がっていく事だろう。この時期を提督は待っているの

だった。


だが、長引く戦に業を煮やしたマタリエルが、配下のデュフォンを援軍に差し

向けるという噂が陣中にあり、ラルフは自分達の手柄を取られるの恐れていた。


この時事実、デュフォン・・・・この凶悪極まりない魔物は、隠密行動と称して

別行動をしていた。


しかし、実はその巨大な力を恐れたマタリエルに、ヒドゥンビレッジに封印され

ようとしていたのだったが、その様な陰謀があろうとは、マタリエルの配下たち

は全く気がついていない。


 「現時点の出陣は却下だ、ラルフ」

そういい捨てると、提督は幕の外に出て行った。


提督が出て行った後を睨みつけ、

 「もう待てない、こうなったら・・・」

ラルフはそう心の中でつぶやくと、これも幕の外へ出て行ったのだった。