第六章〜罠・そして4〜





セクリィス提督はウォーリアー出身のパラディンだけあり、かなりの上背がある。

その大きな背中の後ろに、ラロシュとセスが立ち並んでいる。


セスは後ろから眺めながらこう考えていた。ウォーリアーの筋力と、パラディンの

洗練された技を合わせ持つセクリィスと対戦したら、一体どうやって彼を打ち

倒す事ができるのか・・・。


 「セス、準備は?」 そんな心を見透かす様に、セクリィス提督が問いかける。

 「だ、大丈夫ですセクリィス。万事計画通りに進んでます。」

 「・・・どうやらお出ましだな。いくぞ!」


セクリィスの号令の元、パラディン・ウォーリアーの軍団はラルフ率いる、ダーク

ナイトの軍団へ突撃を開始したのだった。





ダークナイトの攻撃は熾烈を極めた。

2ヶ月の間我慢し続けた鬱憤を晴らすかのごとく、攻撃を加えていく。

戦いが始まって1時間、少しずつ砦の軍団は後退を始めた。


 「殺せ殺せぇぇぇ!!!」

ダークナイトの攻撃により、砦の軍団はついに右翼と中央が瓦解、そのまま

左翼のエフェルス=モンタヌゥス山の峡谷方面へ後退を始めたのだった。


 「砦を捨てるのか!?ざまあみろ!なら先にセクリィスを討ってやる!!」

ラルフは血走った目を峡谷へ向け、追撃を指示するのだった。


 「セス隊長!敵は峡谷へ向けて追撃してきます!」と、部下のズブ。

 「ならば、こっちはさっさと逃げるんだ!」

峡谷に入り込んだ軍団は、一目散にクロノス城を目指しひた走る。





 「くそー、めんどくせ〜な!」

最後方で後ろから迫るダークナイト達にパワーブレイクをかけつつ、セスは

退却するタイミングを見計らっていた。と、そこへラルフが迫る。


 「殺る!」

セスは逃げ切れないと悟り、ラルフと剣を交えた。大剣同士がぶつかり合い、

火花が飛び散る!セスはソニースパイラルをラルフの足元に放つ!

ラルフはこれしきで倒れはしないが、体勢が崩れたところを、ズブがスタウト

ハンマーで激しく打ち付けた!


これをチャンスとばかりに、セスは一目散と逃げ出す。


 「逃げるな!待てっ!!」


再びダークナイトの軍は、追撃をかける!

峡谷の奥までラルフ軍は押し込むのだった。





ダークナイトの集団はセスの軍団のしんがりに追いつこうとしていた。

先頭にいるラルフがセス軍団へ飛び掛ろうとした、まさにその時!


 「うぁああああああ!!!」

後方が何か騒がしい。


なんと、背後からセルキスの軍団が、襲い掛かってきたのだった。


まさにナリッチが倒されたのと同じパターンだが、ラロシュの読みは当たり、

砦の守備隊は見事に挟撃に成功したのだった。


当然、クロノス城を目指していた筈のセクリィス・セスの軍団も、回れ右とばかり

にダークナイト達に襲い掛かる!更にはラロシュの部隊が崖上の両側から

魔法の嵐を打ち込む!


ラルフの軍には援軍が来る筈は無く、まさに四面楚歌の状態に陥ってしまった。


 「チッ、ナリッチと同程度という事か、俺は・・・・」


愚痴を言っている暇もなく、ラルフは軍に後退を命じ、比較的敵の少なそうな

セルキスの隊へ突撃を開始した!


「その鎧の装飾、、、また会ったな、若造!今度はその首貰い受ける!!」

セルキスがラルフを見つけ、三度目の直接対決が始まった!


 ガキッ!!


セルキスの魔法の剣とラルフのナイトソードが激しく交じり合う。あまりの激しい

戦いに助太刀するものはいなかった。ラルフは顔中真っ赤になり、憤怒の表情

だった。しかし、セルキスには仮面の裏側のその表情を読み取る事が出来た。

全く互角に見える勝負は、この余裕の差によって勝敗が決した。


セルキスが大技のデルフィン ブローを打ち込むと、ラルフの仮面に亀裂が

入る。


 「うおおおお!」


その損傷にはお構いなしにダークスラッシュを打ち込み、セルキスに何とか

ヒットするが、ダメージアブソーションによりラルフにも衝撃が跳ね返った!!


 バキッ!!


とうとう、ラルフの仮面は砕け散り、鬼のような形相のラルフの顔が土煙の中に

浮かび上がる!!しかし、ラルフは怯まずにメテオファイヤ(ラルフは黒魔術の

家系)を唱え、炎の流星の中にセルキスを叩き込む!!


しかしその爆撃を、何と・・・・セルキスはベニグマブラスターの炎で防いだの

だった!!この様な荒技で、瞬間的に防御できる者は彼の他にはいない。


 「シッ!」


セルキスは丹田に力を込めると、一気にたたみ掛ける!!

魔法の剣は吸い込まれる様に、ラルフの首筋へ打たれた!!


ガシッ!!


確かな手ごたえ!!


よく見ると、ラルフは瞬間的に腕で防いでおり、首を完全に切り裂くには至らな

かったが、左腕は手首から先が吹っ飛び、そこからあたり一面に血の雨を

降らせていた!


 「うぉぉぉぉぉぉ!」


ラルフは魔法の剣で切られた腕が再生の見込みがなく、その魔力によりドンドン

体力を消費する事を感じ取った。しかし、なんとか右手一本でナイトソードを

突き返し、最後に、腕からほとばしる血のシャワーを、セルキスの顔面へ叩き

つけた!


目に血の雨を浴びせられたセルキスは、何とか目を開いたが、目前から敵の

ダークナイトは消えていたのだった。





結局、この戦いはまたしてもコエリス連合の勝利となった。

1万のダークナイトは全員討ち死に。またしてもハゲタカの晩餐が始まった。

これだけの量の死体となると、周辺には、うじ虫やハエなどもたかり、さながら

地獄絵図が展開される。


 「むごい光景ですね。吐き気がする・・・しかしこれで悪魔の手から、人々を

 守る事が出来るって事で。」 と、ズブ。


 「まあ、ハルマゲドンとは言ったものだが、魔物だって生き物には変わりない

 からなぁ。つまらぬ戦いはしたくないが・・・・しかし、とりあえずは生き延びたっ

 て事だな!よくやったぞ、お前等!!」


セスは自慢の肉体についた傷を、セルキス隊のパラディンに回復させつつ、

そう答えるのだった。


一方、セクリィスとラロシュは

 「ようやくこれで反撃のチャンスが出来ましたのう。」

 「・・・いや、マタリエル軍は更に増強を図るだろう。戦いはさらに激しくなる。」

 「ふむ〜〜、珍しく悲観的ですな。」


その様な会話を交わしつつ、砦への岐路へついたのだった。